- それ以来母親は水商売をして三人を育ててくれたけど、
- 元々父親がいたころから母親は家事をしない人だったらしく、
- 兄弟は誰も遠足や運動会で弁当を
- 作ってもらったことがなかったそうで
- カップ麺を渡されて水筒にお湯を入れていけと言われていたそうだ。
-
家でも食べているのはカップ麺ばかりだって。
長男はもう社会に出た(年齢的には高校生)けど、 - 三男まで当時の自分たちと同じ思いを
- させたくないと思って弁当作りに挑戦したらしい。
-
買い物しながらそういう事情を聴いて、
- 外見で「ここの母子怖い」って
- 思い込んでごめんって気持ちが強くなって、
- アパートに戻ってから家にあげて一緒にオムライス作った。
- お弁当屋さんが作るようなふわふわってわけにはいかなかったけど、
- それでも長男は嬉しそうに戻って行って、
- 後日缶に入ったクッキーの詰め合わせをもらった。
- 三男がすごくよろこんだって。
- 人に話しかけてもだいたい邪険にされてばかりいたから
- まともに相手してもらえてうれしかったってはにかんで言われて、
- その顔がどこにでもいる男の子の顔だったから
- ついお節介で
- 「髪黒くしたほうが大人から受ける印象はいいよ」って言った。
- その時はちょっとムッとした風だった。
- 私自身、言ってから少しだけ
- 年上ってだけで何を偉そうにと反省した。
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弁当作りの直後に私も就職が決まって
- 家にいる時間が短くなったから、
- 会う機会がないまま半年くらい経った。
- 偶然アパートに戻ったのが重なった時に
- 黒髪になった長男に声をかけられて、
- 最初だれかわからずに「???」ってなった。
- ピアスもやめてたし。
-
それで長男からお礼を言われた。
お礼を言われるようなことに心当りがなくて - さらに「???」ってなっていたら、
- ピンポン鳴してきた時より明るくなった顔で
- お礼の内訳を話してくれた。
-
黒髪を進められて反発したものの
- 弁当を作って以来少しずつ料理をするようになって、
- 仕事にも弁当を持って行くようになったら
- 親方(ガテン系っぽい)が見ていたらしく、
- 「若いのに自分で作ってくんのか、偉いなって」褒めてくれたらしい。
- それでその親方に弟の弁当を作った流れを話したら、
- そこでも黒髪を進められたらしい。
- ヘルメット被っているから染めると将来俺みたく
- ハゲると親方は茶化したそうだけど、
- 見た目で損なら今まで散々しただろうって
- 言われて黒髪に戻した。
- そうしたら今までトゲトゲだった周囲の反応が
- 少しずつ柔らかくなって、頭ごなしに否定したり
- 命令したりする大人もいるけど、
- 親身になってくれる大人もいるとわかったそう。
- 特に親方には可愛がってもらえるようになったそうで、
- 家でご飯を食べさせてもらったり、
- 奥さんから簡単に作れる料理を
- 教えてもらえるようになったりしたそう。
- 資格があったほうが将来の役に立つから
- 金貯めて何か資格を取れと助言を受けて
- 積み立てをはじめたって。
- そのきっかけがあの弁当作りだったから、
- お礼が言いたかったって言われた。